不眠症

メラトニン

夜になっても眠れないというのは、その時間に人を眠くさせる脳内物質メラトニンが、必要量分泌されていないからです。

眠れないからといって、睡眠薬や導入剤、あるいは鎮静剤などを飲む方が多いようです。
たまに人のお見舞いに病院へ行くと、一角に朝っぱらから若い人たちがいっぱいいるところがあって、いったい何ごとだろうと思うことがありますが、入院している人に聞くと、そこは心療内科で、大半が不眠症だとのこと。
長い時間をかけて順番を待ち、睡眠薬などを処方してもらうのだとか。
何らかの不安があって眠れない、あるいは強迫要件があって眠れない、そういった状況の人たちなのでしょうが、その人の数の多さに驚きました。

パーキンソン症候群

こうした向精神薬を飲み続けていますと、脳髄にそうした薬がだんだんと溜まっていき、高齢になってから 手足がしびれる、震える、あるいは歩こうとしても足が思うように前へ出ていかず、動けない、つんのめるといった、一種のパーキンソン症候群に陥るケースがよくあります。 そういった方、何人も診ました。
そういう状況になってから施術を受けても、まあ少しずつでも改善していきますが、それまでの何十年もの間飲み続けてきただろう、薬の蓄積がありますので、2、3回の施術でかんたんにというわけにはいきません。ゆるやかな回復を見こむしかありません。今のうちに不眠症の段階でなおしてしまい、そこに至る道を遮断しておいた方がいいでしょう。

体内時計と日光浴

とりあえず日光浴をするといいと思います。
体温やホルモンの分泌などを仕切っている体内時計は、25時間周期で稼働していますが、ほうっておけば毎日1時間ずつどんどんズレていってしまうわけです。そこをヒトは日光を浴びることで24時間周期にもどしています。
日の光、とくに朝日は重要だそうで、浴びればそれだけで体内時計のズレが修正できるということです。
曇ってても全然へいきなので、とにかく外に出てお日さまの光を浴びてください。毎朝通勤でいくらか外を歩くというひとはそれだけでも大丈夫ですが、できれば一日中外で働くのがいちばんいいわけです。

それができましたら、あとはパソコンのディスプレイをのぞきこむ時間をできるだけへらしてください。ついでにテレビを見る時間もへらしてください。ソファにころがってスマホをいじるクセもやめてください。とくに寝る前はいけません。
パソコン、テレビ、スマホといった電子機器は強い電磁波を出します。電磁波はメラトニンをこわして快眠の邪魔をしますから、そばに置いて寝るのであれば、電源を落としてください。
ディスプレイから出る、自然界にない青白く強い光もいけません。神経を過敏にさせ、安静な眠りの妨げになります。 また、眠るときは部屋を暗くして眠ってください。暗いほうがメラトニンがよく分泌されます。
こういった忠告を無視してこっそり内緒のビデオなんか見てたりすると、そのうち昼夜逆転の生活になっていき、明け方に寝て、昼過ぎに起きるといったことになります。そしてそういう生活をさらに続けていると、睡眠中にメラトニンは分泌されなくなるということです。
出ていないと眠る時間になっても眠ることができず、不眠におちいるわけです。

強い気持ちをもっていま上述したようなことを日々続けていくことがだいじです。みずからに強いてよくないクセを矯正する必要があるのです。
最初は何らかの不安があって不眠におちいったのでしょうが、そこでよくないクセを覚えてしまったのがいちばんよくないです。

トリプトファン

ちなみに、メラトニンを食べ物で補おうと思ったら、トリプトファンをふくむ、主にタンパク質がいいようです。 大豆、赤身の魚と肉、乳製品、バナナなど、こういった食品がトリプトファンをふくんでいるそうです。
摂取したトリプトファンを原料にして、日の光、とりわけ朝日を浴び、また軽い運動をすることで、脳内伝達物質セロトニンがつくられます。いわゆる「幸福ホルモン」のひとつです。その分泌量と得られる幸福感の強さとは比例するともいわれます。
このセロトニンは、夜暗くなるとメラトニンに変わり、これがたっぷり出るとよく眠れるというふうになっています。がしかし、夜ふかしから足を洗えないと、せっかく食べ物から材料だけ摂っても、あいかわらずメラトニンは出ず、眠れないといったことになります。
あとで、「やっぱ、最初からあそこで施術受けとけばよかったな」ということにならないよう、がんばってください。

本格的不眠症

さて、通常の不眠程度ならば、上記のように気持ちを切り替えて生活習慣を改め、体内時計をリセットし続けることによって、自然となおっていきますが、そうはできず、あまりにストレスのかかる状態が長く続いていきますと、不眠症という名前の一種の病気になってしまいます。
不眠症なんですけどと言って当院に来られる方は、ほとんど皆そういった状況です。
冒頭に記した、病院で薬を処方してもらっている人たちも、おそらくはそうなのでしょう。

不眠症になった状態でそれを放置していますと、慢性のメラトニン不足となり、睡眠不足から疲労回復もきちんとできず、それゆえ新陳代謝が落ち、全身の細胞の活性が低下、その結果糖尿病はじめいろいろな成人病にかかりやすくなります。また、当然のように免疫も落ちてきます。治せるうちに治しておくのが賢明です。

偏桃体

不眠症の初期には体内時計のズレ程度だったものがさらに不眠傾向が強まると、気持ちのバランスがくずれ、とてもストレスに敏感になっていきます。そして、それまで以上に日常のストレスを強く感じるようになります。ふつうの健康体でストレス耐性が強かったころには感じなかったレベルのストレス要件で、重いストレスを感じるようになります。

ストレスを感じるということは、それ自体平常の状態ではありませんから、身体は非常時への防衛反応として、スクランブルをかけることになっています。
スクランブルとは、つまり感情発生装置であるところの扁桃体への血流を増やし、それによって心拍数や血圧を上げ、いろいろなストレスホルモンを体の中に送り出して、何が起きても反射的に体を動かして対処できるように、覚醒させておくことです。これが不眠症という状態です。
慢性的なストレスをずっと受け続けていると、扁桃体はいつも興奮して、静まらなくなっていきます。それが長く続けば、慢性のほんとうの不眠症・・・

不眠症の方に施術していると、頭の中にたんこぶのようなものを感じることがよくあります。たんこぶというほどでなくとも、熱く腫れたカタマリのようなものです。左右で腫れが違う場合もしばしばあります。脳内解剖図から察するに、たぶん偏桃体というものだろうと考えてはいますが、そういった名前などは私にとってはほとんどどうでもよいものです。私の施術はその熱いたんこぶを冷ましてあげ、周囲と変わらぬよう平準化してあげることなので。
私が思うに、それは不眠のカタマリとでもいうべきものです。それを散らして熱を冷まし平準化してあげると、確かに不眠症はよくなりますから。

実例

若い女性がお友達同士二人でやってきて、そろって不眠症だというので診てみますと、たしかにお二人とも目の奥に不眠のカタマリがありました。 目ということでお仕事を聞いてみると、やはり二人ともおなじ会社で働くパソコン仕事の方でした。

1日中パソコンのディスプレイとにらめっこしている人によくあるパターンです。

二人とも一度の施術でかなり良くなったとのご報告がありましたが、 しばらくするとまた施術が必要、といったことになりました。
これは当然で、通常はそうです。
扁桃体の興奮、腫れを鎮めるには、本来、持続する軽い運動を日常生活にとり入れながら、規則正しい生活をしていればいいわけで、それが不眠症治療の気の長い王道です。
しかし、私の施術は王道ではなく、気短かなショートカット道ですから、ストレス&不眠の残影までを、一回の施術でいきなりすべて消し去るまではいきません。まして、そういった仕事によってなった場合には、仕事を続ける限りぶり返しはあると思わなければなりません。

しかしお二人とも、多少のぶり返しはあったものの、いつまでも同じレベルにとどまってはいませんでした。その後も数ヶ月間は月に一度や二度は受けにいらっしゃいましたが、受けるたびに軽くなっていったようでした。
最初にいらしたときは、お二人とも神経症なのではないかと思うくらいせっぱつまった感じで、前頭部が張りつめているように感じましたが、施術を受けはじめるとそういったものはすぐに消えていき、表情も気持ちも非常に明るくなり、話すときには目もいきいきして、若返ったとさえ感じるようになりました。

海馬、セロトニン

睡眠不足が続くと、睡眠中に分泌されるはずの成長ホルモンの量が少なくなるため、新陳代謝が落ち、それによって保ってきた身体の細胞の活性が失われるようになり、病気にかかりやすい身体になってしまいます。 また、偏桃体とセットで心身の安定を保つ役割の海馬は、ストレスに対して非常にもろく、長い間コルチゾール(ストレスホルモン)が分泌され続けると神経細胞が萎縮するそうです。記憶の中枢でもありますから、萎縮などされてはこまりますね。
アルツハイマーやPTSD(心的外傷後ストレス障害)、あるいはうつ病の患者さんでも海馬は萎縮するそうですから、不眠症というのはけっこうな病気なんですね。
ですから不眠という症状は、いっときでもいいので、止められるときに止めておくべきと考えます。

ストレスの多い状況では、それに対応しようとがんばって偏桃体にどんどんエネルギー=血液を送るいっぽう、脳幹はセロトニンをつくるほうの仕事はあまりしなくなります。
セロトニンは幸せを感じさせてくれるホルモンです。通常落ちついて生活していればセロトニンはふんだんに生成され、その濃度は高く保たれ幸せに暮らせますが、ストレスのかかる状況では薄くなり、それとともに不安、緊張、恐怖に支配されるようになっていきます。
そして、不眠の度合いはいよいよ深まっていくという悪循環におちいってしまいます。

もちろん、治してもあくる日には仕事が待っていて、すぐまたおなじ不眠の穴に落ちこんでしまうかもしれません。しかしそれでも、治せる時に治しておくことがだいじです。
不眠症でないふつうの状態を身体に思い出させる、ということも必要です。
火がついたようになっている偏桃体を鎮めて平常時にもどし、これがふつうなんだよとおしえてあげることが必要なのです。

上述のお二人の女性も言ってらっしゃいましたが、何度も施術によって治った状態にしてもらったことがよかったとのことです。
レベル的に軽くなったこともあって、再三不眠におちいっても、「また、あそこで治してもらえばいいわ」と思うことで気が楽になり、実際にはこちらへ来なくても、自力で夜のメラトニンをふやす手を打って、くふうでしのげるようにもなりました。



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